120年ぶりに改正された民法が、2020年4月1日から施行されることはご存知ですか?
この民法改正・・・、じつは不動産の売却活動にも大きな影響があります。
売主にどのような不利益なことがあるのか、きちんと認識しておかなければ不利な契約を締結するリスクがあるんです!
そこで今回は、2020年の民法改正による不動産売買の7つの変更点と注意するべき5つのポイントについて詳しく解説します。
不動産売却を検討中の方は、ぜひご確認ください。
- 瑕疵担保責任から契約不適合責任へと変更
- 売主の責任期間が延長され、損害賠償の範囲が広がる
民法改正による不動産売買に関する7つの変更点
不動産売買に最も影響を与える変更点は、瑕疵担保責任に関する条項が改正されたことです。また、ここでは、瑕疵担保責任に関する6つの変更点と手付金に関する1つの変更点の合計7つの変更点について説明します。
- 瑕疵担保責任から契約不適合責任へと名称が変わる
- 責任を負う対象が変わる
- 損害賠償請求の範囲が変わる
- 売主の責任期間の延長
- 追完請求(修復請求)をすることができる
- 代金減額請求をすることができる
- 手付解除のルールが明文化される
以下に、それぞれについて詳しく解説します。
瑕疵担保責任から契約不適合責任へと名称が変わる
まず「瑕疵担保責任」という名称が「契約不適合責任」という名称に変更されます。
現行民法は明治時代の1896年に制定されたため、「瑕疵(かし=キズ・不具合・故障などの意)」という読みにくく意味が分かりにくい表現でしたが、改正民法では「契約不適合」という現代的で意味が分かりやすい表現に変更されました。
改正民法における「契約不適合」の意味は、これまで不動産取引で使われてきた「瑕疵」の意味と考えて差し支えありません。
現行民法の第570条によると「瑕疵」の定義は定められていませんが、改正民法では「契約不適合」という表現を使うことによって「契約の内容に適合しているか否か」がポイントであることが明確になりました。
責任を負う対象が変わる
現行民法において、売主は「隠れた瑕疵」に対して瑕疵担保責任を負う、と規定されています。「隠れた瑕疵」とは、買主が通常の注意を払ってもわからなかった(善意無過失)瑕疵という意味です。
つまり、これまでは買主が契約時にわからなかった瑕疵のみが対象でしたが、改正民法では「隠れた瑕疵」という概念がなくなります。
隠れた(わからなかった)瑕疵であろうと隠れていない(わかっていた)瑕疵であろうと、契約した内容に適合しているか否かが判断基準となります。
そのため、売主は買主が契約時に知っていた瑕疵についても責任を負う可能性があります。
損害賠償請求の範囲が変わる
現行民法では、瑕疵担保責任において、売主は売主の故意・過失がなくてもその責任を負わなければならない(無過失責任)と定められていました。
いっぽう、改正民法では「契約不適合があっても売主の責めに帰することができない事由の時は損害賠償請求をすることはできない」となります。
「売主の責めに帰することができない事由」とは、「売主の故意・過失がない」という意味であり、具体的には地震により外壁にヒビが入ること、などがあります。
売主の責任期間の延長
現行民法では、瑕疵担保責任の期間について「買主が瑕疵を知った時から1年間」と定められていました。
ところが、改正民法では、売主が瑕疵を知っていた場合や瑕疵を知らないことについて売主に重大な過失があった場合は、売主の責任期間が延長され、一般的な時効である5年となります。
たとえば、土壌汚染があることを売主自身の重大な過失により知らないまま土地を売却した場合、「買主は土壌汚染の事実を知った時から5年間、売主に対して責任を問うことができる」ということになります。
追完請求(修復請求)をすることができる
現行民法では、不動産に瑕疵があった場合に、買主の救済措置は「契約の解除」と「損害賠償請求」の2点でしたが、改正民法では「追完請求(修復請求ともいう)」もできることとなりました。
追完請求とは契約通りの物を請求することであり、引き渡した不動産に契約不適合な部分があった時、買主は売主に対して修理や補修の請求ができることとなりました。
代金減額請求をすることができる
改正民法では、買主保護の措置として、上記の修復請求に加えて代金減額請求をすることも可能となりました。
「代金減額請求」とは、売主が契約不適合部分について修復請求に応じない場合、売買代金の減額を要求できるということです。
ただし、追完請求および代金減額請求に関しては、買主の責めに帰すべき事由の場合(買主の故意・過失による場合)は、売主に対して請求することはできません。
手付解除のルールが明文化される
今回の改正で、売買契約締結時の手付解約に関するルールが変わりました。
手付解約とは「相手方が契約の履行に着手するまでは、売主は受領済の手付金の倍額を支払う、買主は支払済の手付金を放棄することによって契約を解除できる」という内容の規定です。
現行民法では、そのタイミングについて「当事者の一方が契約の履行に着手するまでは」と定められていましたが、改正民法では「相手方が契約の履行に着手するまで」と変更されました。
手付解約には「相手方がすでに契約の履行に着手していたら相手方に損害が発生するかもしれないので、自分からは契約解除できない」という意味が込められています。
しかし、これまでの「当事者の一方が」という表現によると、「相手方が履行の着手をしていないにもかかわらず、自分が着手していたら解約できないのか?」という疑義が生じていました。
今回の改正では「相手方が」という表現になったため、「解約する側が履行の着手をしていても手付解約できる」ということが明確になりました。
民法改正によって不動産売買を検討中の方が注意するべき5つのこと
次に、この民法改正を2020年に控え、不動産売却を検討中の方が5つの注意するべきポイントについて説明します。
- 「隠れた瑕疵」はなくなる
- 売主の責任期間の延長
- どのような部分が「契約不適合」になるかわからない
- 買主が損害賠償請求できる対象の範囲が広がる
それぞれについて、以下に詳しく解説します。
「隠れた瑕疵」はなくなる
改正民法では、「隠れた瑕疵」という概念がなくなりました。
これまでは、売主が告知することによって買主が認識していた瑕疵については、瑕疵担保責任を負わないことが一般的でした。
ところが、改正後は買主が認識していた欠陥などについても、契約不適合として売主が責任を負うこととなりますので、注意が必要です。
売主の責任期間の延長
売主の契約不適合に対する責任期間が5年となります。
現行民法では「知った日から1年間」という規定ですので、買主保護のために売主の責任が強化されることとなります。
そのため、売主の責任期間が延長される前に売却することもひとつの考え方といえます。
どのような部分が「契約不適合」になるかわからない
現行民法において、何が具体的に瑕疵にあたるのか規定されていませんが、その点は改正民法においても変わりません。
しかし、現在は不動産売買の取引慣習として、主に「雨漏り」「シロアリの被害」「構造上重要な躯体部分の腐食」「給排水管の故障」という4点に瑕疵の範囲を定めています。
民法改正後に「契約不適合」となる部分が、どのようになるのかは決まっていません。
今後、不動産業界において実務に対してのガイドラインの設定やルールの明文化などが行われることが期待されていますが、現時点ではわからないのか実状です。
雨漏りしている家を売却する方法に関して、詳しくは下記記事をご覧ください。
買主が損害賠償請求できる対象の範囲が広がる
現行民法における瑕疵担保責任に基づく損害賠償の範囲は、その契約において瑕疵がないと信じたために発生した損害(主に実費など)に限られると考えられていました。
ところが、改正後は、その契約が完全に履行されていた場合に得られていたであろう利益(値上がり益や転売益など)に対しても損害賠償の範囲が広がります。
その他、契約不適合により補修工事の必要が生じ、引渡しを受けられずに仮住まいをした場合の費用なども損害賠償請求の対象となります。
このように、買主の大幅な権利強化が発生する可能性がありますので、注意が必要です。
施行が2020年のためオリンピック後の影響が・・・
追記 オリンピック延期のため、下記記載は参考に留めてください。
2020年といえば東京オリンピックが開催されますが、オリンピック後の景気後退がささやかれています。
なぜなら、近年のオリンピック開催国が、オリンピック後に景気後退の状況に見舞われているためです。
日本でも東京オリンピックに向けて外国人旅行客の増加や施設の建設需要といった景気上昇要因はあるものの、ほんの一時期の需要でありその後の反動を心配する声も根強くあります。
現実にどうなるのかはわかりませんが、不確定要素の一つであることは間違いがないために、「民法改正も含めて2020年を迎える前に不動産売却を終わらせる」ということも検討の余地があるでしょう。
民法改正によるリスクを避けるには?
2020年に迫った民法改正における、不動産売買に及ぼす変更点や注意点について解説しました。
現行の瑕疵担保責任と同様の契約不適合責任に関する条項は、基本的に任意規定です。そのため、売主・買主の契約当事者双方が合意のうえ、売買契約書に特約事項などを設ければそちらが優先されます。
しかし、大幅な買主保護の強化であり、知らずに放っておけば大きな売主責任を負わなければならなくなります。もちろん、施行後もこれまでの判例の蓄積などがまったくないため、契約書の作成も慎重に行う必要があるでしょう。
そういったリスクを避けるためにも、あなたの事情が許せば、2020年以前に不動産売却を完了しておくことを検討してください。
不動産売却をお急ぎでしたら、HOME4U不動産売却のような大手不動産一括査定サイトを利用すると、売却をスムーズに進めることができるでしょう。
以上、2020年の民法改正による不動産売買7つの変更点と注意するべき5つのこと…でした。
参考リンク
2019年の消費税増税の影響についても知りたい…という方は下記記事も参考に。不動産売却に及ぼす5つの影響に関して詳しく解説しています。
不動産一括査定サービスの利用も忘れずに!
価格査定と不動産会社探しには、複数の会社にいっぺんに査定依頼できる不動産一括査定サービスが便利。今や不動産や自動車の売却には一括査定サービスを使うのが常識です。 
一般的な家や土地なら、大手不動産ポータルサイトのHOME4U不動産売却の一括査定で問題ありません。特殊な物件に関しては、「物件タイプ別不動産一括査定サービスの選び方」をご確認ください。