「建物を解体して、そのままにしていいの?」と不安になったことはありませんか?
じつは、登記が自然になくなることはありません。
「建物滅失登記」をしないと、存在しない建物にもかかわらず、登記上は建物が残ったままの状態になっているのです。
ですから、建物を解体した後は、「建物滅失登記」をする必要があります。
でも、登記って誰がやるの?司法書士?銀行?
いいえ、自分でもできるんです。
今回は、建物滅失登記について、自分で登記する方法や必要書類、費用、忘れた場合のデメリットなどについて詳しく説明します。
登記に必要なことをしっかり確認して、安心して建物を解体しましょう。もしこのまま登記をしなかった場合、後々大変なことになるかもしれません。
最後までお読みいただければ、建物滅失登記についての疑問や不安をすべて解消できますよ。
建物滅失登記とは?
そもそも建物滅失登記とはどのようなものなのでしょうか?
まずは、建物滅失登記について具体的な例を交えながら説明します。
建物を解体したら必要な建物滅失登記
既存建物を解体したら、建物滅失登記をしなければなりません。
建物滅失登記とは、解体による取壊しや火災・地震などによる焼失などで建物が現実に存在しなくなった場合に、法務局により管理されている建物の登記を閉鎖することを言います。
建物滅失登記は、建物の所有者に申請義務がありますので注意しましょう。
実際に建物滅失登記を行ったケースを参照して、登記を行う前と後での登記内容の違いを確認しましょう。
<建物滅失登記前の登記内容の例>
木造平屋建の居宅(住宅)が1棟登記されていますが、解体工事後に建物滅失登記を行い、更地で売却しました。
<建物滅失登記後の登記内容の例>
下線部分は抹消された内容となります。建物の所在、家屋番号、種類、構造、床面積、所有者など登記内容が抹消されていることがわかります。そして、建物滅失登記後は「閉鎖」と記載されます(赤枠内参照)。
空家等対策特別措置法により解体・滅失登記が必要になることも
人の出入りが1年以上なく、管理が不適切な状態である空き家は、空家等対策特別措置法に基づき「特定空家等」に判定されます。
判定後、自治体などの助言・指導・勧告を受けたにもかかわらず改善されない場合は、固定資産税の住宅用地の特例による軽減措置の適用除外になります。
それでも放置を続けてしまうとどうなるでしょう。
自治体は建物などの解体や除却、修繕などの命令を行い、命令に違反すると50万円以下の罰金が科されてしまいます。
命令を受けても空き家に改善が見られない場合、自治体が所有者に代わり、強制的に建物などの解体や除去を行う代執行が行われます。
しかも、かかった費用は所有者が負担しなければなりません。
「空家等対策特別措置法」による行政処分の対象となるのは「特定空家等」です。どのような状態だと「特定空家等」に指定され、行政による対処がどのような流れで行われるのかについて、詳しくは下記記事で解説しています。
空き家を解体すると、修繕などの補修費用もかからなくなり、定期的な管理の負担が軽くなります。また、老朽化した古家が建っている土地より、更地の方が売却活動に有利なケースも少なくありません。
このように、空き家に関する法整備が進んだことにより、空き家を解体するケースも増えてきていますが、その場合は建物滅失登記を忘れないようにしましょう。
建物滅失登記を忘れてしまった場合のデメリット
建物滅失登記のことは分かりましたが、もし登記を忘れてしまったらどうなるのでしょうか?
建物滅失登記は所有者に申請義務がありますが、その義務を果たさない場合にはこのようなデメリットがあります。
- 1ヶ月以内に申請しないと10万円以下の過料
- 土地を担保に融資が受けられない
- 土地の売却活動ができない
- 解体した建物に固定資産税・都市計画税を支払い続ける
- 建築確認が下りないので建て替えができない
- 相続等により建物滅失登記の手続きが煩雑に
それぞれのデメリットについて、詳しく見ていきましょう。
1ヶ月以内に申請しないと10万円以下の過料
不動産登記法第57条と第164条において、「取り壊した日から1ヶ月以内に建物の滅失登記を申請しないと、10万円以下の過料に処する」と規定されています。
過料とは、国または地方自治体が行政上の違反などを犯した者に科する金銭罰であり、罰金のような刑罰ではありません。
ちなみに、所有権移転登記や住所変更登記、所有権保存登記など権利に関する登記は申請しなくても過料に処されません。
このように、建物滅失登記をしないと10万円以下の過料に処するという法律上の規定はあるものの、実際には滅失登記をしないことで過料になり、金銭を納付したというケースはあまりないようです。
しかし、法律という社会のルールに定められているので、少し期間が過ぎたとしても忘れずに行っておいた方がよいでしょう。
土地を担保に融資が受けられない
土地を担保に金融機関などから融資を受ける際には、実際には存在しない建物の滅失登記をしていないと融資が受けられないことがあります。
現実の土地や建物の状態と登記内容が合致していないと、「不備がある状態」と判断されるからです。
実際には解体されて存在しないのに、建物の登記が残っている場合は注意してください。
土地の売却活動ができない
滅失登記を行っていないと金融機関などから融資を受けられません。これと同様に、実際には存在しない建物の登記が残っている土地は売却できないでしょう。
なぜなら、土地の所有権が買い手に移っても、別の名義人の建物の登記が土地上に残っていると、権利上の瑕疵(欠陥)になってしまうからです。権利上の瑕疵があると、買い手は金融機関から住宅ローンを利用できなくなってしまいます。
いずれにしても、権利上の瑕疵がある土地を購入する人はまずいませんので、建物滅失登記は必ず行いましょう。
解体した建物に固定資産税・都市計画税を支払い続ける
建物滅失登記を行わないと、解体して存在しない建物の固定資産税・都市計画税を支払い続けることになりますので注意しましょう。
固定資産税・都市計画税はその年の1月1日現在の所有者に課税されます。
法務局は登記内容に変更があれば、自治体へ通知する義務がありますので、建物滅失登記をきちんと行っていれば、次の年からその建物に対する固定資産税・都市計画税は課税されなくなります。
ただし、解体した建物が住宅の場合、更地になると住宅用地の特例による固定資産税・都市計画税の軽減措置が受けられなくなるため、土地分の課税額は増えますので注意が必要です。
参考 固定資産税の計算方法や特例に関しては、こちらの記事が詳しいです。
建築確認が下りないので建て替えができない
建物を建てる時には、建築確認申請という手続きを自治体で行わなければなりません。その際に、申請した土地上に解体して存在しないはずの建物の登記が確認された場合、建築確認が下りない可能性があります。
相続等により建物滅失登記の手続きが煩雑に
建物滅失登記をしないまま所有者が亡くなった場合、相続人である配偶者や子供が滅失登記の義務を引き継ぎます。
その際には、所有者が行う場合の申請書類や手続きより、戸籍などの相続証明書類の取得や費用などが増えることになります。
本来、所有者がするべき建物滅失登記を相続人がすることは、所有者しか知らない事実などもあることから、相続人に多くの負担や費用がかかることとなりますので注意しましょう。
自分でも簡単にできる建物滅失登記
ひょっとすると、建物滅失登記は専門家に依頼しなければできないものと思っていませんか?
じつは、建物滅失登記は、測量などの専門的技術が必要ないので、自分でも対応が可能な登記のひとつです。ここでは、建物滅失登記とはどのように対応したらよいのか、そのコツを説明します。
建物滅失登記の手続きの流れ
建物滅失登記の大きな流れは以下の通りです。
<建物滅失登記の手続きの流れ>
手続きについて、ひとつずつ詳しく説明します。
1.家屋番号を調べる
まず、固定資産税納税通知書で家屋番号を確認します。
建物表題登記がされている建物であれば家屋番号が記載されているため、建物滅失登記が必要です。
逆に家屋番号が記載されていなければ、建物表題登記されていない可能性が高いため、建物滅失登記の必要もありません。
2.登記事項証明書などを取得
そして、滅失する建物の所在地を管轄する法務局へ行き、登記事項証明書を取得します。
登記事項証明書に記載されている建物の所在地番、家屋番号、建物の種類、構造、床面積、所有者の住所と氏名を確認します。
万一、所有者の住所が現住所と異なる場合は、登記上の住所から現住所までの経緯がわかるような住民票や戸籍の附票などを添付する必要があります。
また、氏名が異なる場合は、戸籍謄本と本籍地入りの住民票(または戸籍の附票)などが必要となります。
同時に、抵当権が登記されていない(抹消登記されている)ことも確認しましょう。
必要に応じて、対象となる土地や建物の特定のために、公図や建物図面などを同じ法務局で取得しましょう。その場合、実際に現地で土地の所在や建物の位置などを、公図や建物図面と照らし合わせて確認することをお勧めします。
3.建物滅失登記申請書類を作成
次に、取得した登記事項証明書をもとに建物滅失登記申請書類を作成します。(書式等に関しては後述)
登記申請に必要な書類である建物滅失登記申請書、解体業者による取壊し(とりこわし)証明書、解体業者の代表者事項証明書か履歴事項証明書のいずれか1つ、解体業者の印鑑証明書、建物の存在していた場所の案内図を用意します。
念のため、滅失登記申請書類はコピーを取って手元に保管しておきましょう。
4.登記申請書類を法務局へ提出
登記申請書類が用意できましたら、滅失する建物の所在地を管轄する法務局へ行き、登記申請書類を提出します。自宅から遠いとか時間の都合がつけられないような場合は、直接持ち込みではなく郵送でも提出が可能です。
5.登記完了
そして、建物滅失登記申請書類に不備がなければ、提出後約2週間程度で登記が完了となります。万一、不備がある場合は、法務局より電話などで連絡がありますので、補正に出向きましょう。
建物滅失登記の申請人について
建物滅失登記は、その建物の登記名義人が申請人となって行わなければなりません。所有者の配偶者や子供などの親族であっても、建物滅失登記の申請人になることはできません。
代理申請も可
ただし、建物の登記名義人が高齢や体調不良などで動くことが困難な場合、親族が代理で行動することは可能です。その場合でもあくまで申請人は登記名義人であるため、登記名義人の住所・氏名・押印(認印可)が必要です。
相続の場合
建物の登記名義人が亡くなっている場合は、相続登記が完了していれば相続した登記名義人で建物滅失登記を行うこととなります。
相続登記が完了していない場合、相続人のうちの一人からでも登記申請が可能です。ただし、相続の証明書類として、登記名義人の亡くなったことの記載がある戸籍謄本などを提出する必要があります。
共有名義の場合
滅失した建物が共有名義の場合、土地の分筆登記以外は、共有者の一人からでも申請することができるため、建物滅失登記は可能です。
建物滅失登記の必要書類
建物滅失登記申請に必要な書類は以下の5点です。
- 建物滅失登記申請書
- 案内図
- 取壊し証明書
- 取壊した解体業者の法人登記事項証明書
- 取壊した解体業者の法人印鑑証明証
建物滅失登記申請書
申請書の書式は法務局のホームページからダウンロードできます。
登記事項証明書に記載されている、不動産番号、所在、家屋番号、種類、構造、床面積を確認し、そのまま記載します。
案内図
取壊した建物の位置がわかる地図で、通常は住宅地図を添付します。
取壊し証明書
解体工事を依頼した解体業者に発行してもらいます。
取壊した解体業者の法人登記事項証明書
取壊し証明書と同時に解体業者から送ってもらいます。
取壊した解体業者の法人印鑑証明証
取壊し証明書と同時に解体業者から送ってもらいます。
取壊し証明書、解体業者の法人登記事項証明書、解体業者の法人印鑑証明書の原本を返還してほしい場合、原本還付を希望する書類のコピーと一緒に「原本還付請求書」を提出します。
また、建物の登記名義人が亡くなっている場合は、以下の書類の提出が追加で必要となります。
- 亡くなった人の戸籍謄本または除籍謄本
- 亡くなった人の住民票の除票または戸籍の附票
- 相続人の戸籍謄本
申請にかかる費用
建物滅失登記には、登録免許税などの費用はかかりません。
ただし、登記事項証明書や公図、建物図面など、必要な情報を得るための資料取得には費用がかかりますので、法務局に確認しましょう。
建物滅失登記Q&A
ここからは、建物滅失登記についてよくある疑問にお答えします。
依頼するなら司法書士?それとも土地家屋調査士?依頼費用は?
登記関係の手続きですので、登記の専門家である司法書士に依頼することを思い浮かべた方もいるかもしれませんが、建物滅失登記を依頼できるのは土地家屋調査士だけです。
司法書士は不動産の権利関係の登記が専門で、滅失登記などの不動産の表題に関する登記は土地家屋調査士が専門家として代理申請を行えます。
費用は、目安としておおよそ4万~5万円程度ですが、建物の棟数や構造、大きさなどにより変動する可能性があります。
抵当権が設定されている建物を滅失登記できる?
原則、抵当権が設定されている建物の滅失登記に際して、抵当権者の承諾書などの書面は必要ありません。
ただし、抵当権者の承諾も受けずに建物を取壊してしまうと、抵当権設定者(融資を受けている人)と抵当権者との間でトラブルが起きないとも限りません。
そのため、事前にかならず金融機関などの抵当権者に相談し、承諾を得ておきましょう。登記申請時には、法務局からも抵当権者の承諾の有無について必ず確認されます。
ローンを完済している場合は、建物抹消登記をすれば抵当権も自然と抹消されることとなります。
また、ローンを返済中の場合は、その建物は抵当権の担保となっていますので、必ず事前に金融機関などの抵当権者に相談しましょう。
勝手に行うと契約違反になる可能性がありますので、注意してください。
なお、抵当権の設定された不動産を売却する場合、必ず抹消登記が必要になります。抵当権抹消登記なしに引き渡すと、違約金や損害賠償を請求される可能性もありますので、ご注意ください。
抵当権に関しては、下記記事で詳しく解説しています。
登記されていない建物を解体した場合の手続きは?
不動産登記法において、「建物の所有者は建物を新築してから1ヶ月以内に、建物表題登記を申請する義務がある」と規定されています。
しかし、表題登記されていない建物も数多くあります。
表題登記されていない建物を解体した場合、登記自体が存在しないので建物滅失登記をする必要はありません。
古家付き売地として売却する場合はどうする?
古家付き売地として売り出し、買主が購入後に建物を新築する場合に、建物を売主名義のまま、買主側で建物滅失登記を行うことがあります。
この場合、土地建物売買契約を締結し、決済時に建物の所有権移転は行わず土地の所有権移転だけを行い、必要書類を預かったうえで解体後に滅失登記します。
この方法のメリットは、買主が建物分の所有権移転登記コストを削減できることです。
しかし、一時的とはいえ他人名義の建物が担保である土地上に存在してしまうので、買主側の抵当権者である金融機関が許可しない場合もあります。
その場合には、土地売買契約を締結し、決済引渡しまでに売主側で建物を解体し滅失登記をするなど、柔軟に対応する必要があるでしょう。
古家付き土地(空き家)の売却方法は3つあります。それぞれにメリットとデメリットがありますので、下記記事でよく確認してください。
建物滅失登記は自分でもできるので早めの対応を!
建物滅失登記の必要性や自分でする場合の手続き方法、注意点などについて説明してきました。
建物滅失登記は自主的に行う登記なので、忘れて行わなくとも法務局などに知られることはありません。
しかし、過料という行政罰が規定されており、固定資産税・都市計画税の過剰納付や融資の拒否、相続の手続き煩雑化などのさまざまなトラブルの原因となる可能性があるため、速やかな対応が必要です。
登記の中でも、建物滅失登記は自分で行える登記の一つですので、解体をしたら忘れずにすぐ着手しましょう。
以上、建物滅失登記とは?自分で登記する方法と必要書類や費用…でした。
参考
家を解体すると、建物滅失登記が必要なだけでなく、解体費用がかかったり、買い手が住宅ローンを受けられない可能性があります。家を解体するべきか迷っている方は下記記事も参考に。
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