「田んぼや畑を売りたいけど、どんな手続きが必要なのか分からなくて困っている」という方へ。
農地を売却するためには、一般の土地とは異なる手続きが必要です。なぜなら、農地は農地法で権利移動が規制されているからです。
つまり、農地を売るには農地法を理解し、手続きに不備がないよう十分気をつける必要があります。
実際に、土地が農地かどうかは、登記上の地目は関係ありません。耕作の目的で使われているかどうか、現況で判断されます。
この記事では、スムーズな農地売却のために必要な手続きや価格相場、税金などについて詳しく解説します。農地を売却する際に不安を感じている方は、ぜひチェックしてみてください。
農地売買の条件と注意点
農地を売却するためには、「農地」として売却するか、「農地以外の土地」に転用して売却するか、いずれか2つの方法しかありません。
売却と転用、それぞれのポイントは以下の通り。
- 売却 → 農地として売却するなら農家にしか売れない
- 転用 → 転用するなら「立地基準」と「一般基準」が条件
それぞれの方法について、もう少し詳しく説明します。
農地として売却するなら農家にしか売れない
農地として売却するなら、その用途は「耕作」に限られ、売却先は農家か農業生産法人※だけです。
所有権移転前に農地法第3条の許可申請を行って、農業委員会の許可を受けなければなりません。
農地法第3条では、買い手に対して下記のような厳しい要件が設けられていて、その要件すべてを満たす必要があります。
- 買い手が農業経営に供すべき農地のすべてについて効率的に利用して耕作する。(第2項第1号)
- 買い手が農業経営に必要な農作業に常時従事(原則年間150日以上)する。(第2項第4号)
- 耕作面積50アール(5,000平方メートル)以上(第2項第5号)
- 耕作等の事業内容や、農地の集団化、農作業の効率化その他周辺の地域における農地の農業上の効率的かつ総合的な利用の確保(第2項第7号)
自分自身(農業生産法人を含む)で農業を行うことが大前提です。投資として購入し、他人に農業を任せたりすることはできません。
このように、農地を「農地」として売却するには高いハードルがあるので、買い手を見つけるのは容易ではないんです。
転用するなら「立地基準」と「一般基準」が条件
農地を宅地などに変更することを、「農地転用」といいます。
転用するためには、農地法第4条・第5条で定める一定の要件を満たしていなければなりません。
転用できるのは農業の利用に支障の少ない農地のみ
国や都道府県は、優良農地を確保することを重視しています。
そのため、農地の優良性や周辺の土地利用状況等によって農地を区分し、農業上の利用に支障の少ない農地だけが転用できるよう誘導しています。
この考え方から、農地転用について「立地基準」と「一般基準」の2つのポイントで確認し、判断しています。
農地転用の立地基準
「立地基準」では、その土地が「農地に適しているか」といったことや周辺の市街地の状況から見て、農地の区分を分けます。
さらに、その区分に応じて、農地転用を許可するか否かを判断するのが「立地基準」です。
一般的に、市街地から離れていて生産能力が高い農地ほど、転用が許可されません。逆に、市街地に近い農地ほど転用が許可されやすくなります。
まずは、売却したい農地がどの区分に該当するのかを農業委員会に確認しましょう。農業委員会は、農地を管轄する市区町村役場にあります。
<立地基準>
農用地区域内農地(市町村が定める農業振興地域整備計画において農用地区域とされた区域内の農地) | →原則不許可 |
甲種農地(市街化調整区域内の土地改良事業等の対象となった農地(8年以内)など、特に良好な営農条件を備えている農地) | →原則不許可 |
第1種農地(10ヘクタール以上の規模の一団の農地、土地改良事業等の対象となった農地など良好な営農条件を備えている農地) | →原則不許可 |
第2種農地(鉄道の駅が500m以内にあるなど、市街地化が見込まれる農地又は生産性の低い小集団の農地) | →第3種農地に立地困難な場合等に許可 |
第3種農地(鉄道の駅が300m以内にあるなど、市街地の区域又は市街地化の傾向が著しい区域にある農地) | →原則許可 |
農地転用の一般基準
一般基準とは、「ほんとうに農地が転用されるのか」といったことや、「周辺農地への被害を防ぐ措置がちゃんとなされているか」といったことを審査する基準のことです。
農地転用を申請するには、転用する事業計画や何を建てるのかを明確にしなければなりません。「とくに目的はないが、とりあえず許可だけ取っておく」ということは認められないでしょう。
転用後の利用目的や事業計画を具体的に立てて、確実に達成できることが求められます。
なお、転用を申請する農地の面積が4ヘクタール以下の場合は都道府県知事、4ヘクタールを超える場合は農林水産大臣の許可が必要となります。
<一般基準>
転用の確実性が認められない場合(他法令の許認可の見込みがない、関係権利者の同意がない等) | →不許可 |
周辺農地への被害防除措置が適切でない場合 | →不許可 |
第1種農地(10ヘクタール以上の規一時転用の場合に農地への原状回復が確実と認められない場合 | →不許可 |
農地を売却する手続き
農地を「農地として売却する場合(3条申請)」と「農地転用して売却する場合(5条申請)」とでは手続きが異なりますが、どちらも農業委員会の許可が必要になります。
一般の土地売買取引とは違った面もあるので、農地売却の流れについてしっかりと確認しましょう。
農地売却・転用のおおまかな流れ
農地として売却する場合(3条申請)でも農地転用して売却する場合(5条申請)でも、通常、土地売買契約書の中に「農業委員会の許可が得られること」を停止条件として追加します。
停止条件付の農地売買では、農業委員会の許可を得ることが契約行為の条件になり、農業委員会の許可を得たときに、契約締結日にさかのぼって効力が発生します。
もしも、農業委員会の許可が得られなかった場合は、契約は白紙撤回となり、違約金や損害賠償請求の対象にはなりません。
【農地売却の流れイメージ】
所有権移転登記
また、5条申請(農地転用して売却)の場合、農業委員会の許可が下りるまで仮登記をかけて買主の立場を保全しておくことがありますが、必須ではありません。
仮登記は、「許可証交付後に本登記をするときの順位を保全する」という意味しかないのです。仮登記が第三者への対抗要件になりませんので注意しましょう。
つぎに、農業委員会の許可が下り許可証が公布されたら、代金(手付金を支払っている場合は残金)を支払い、所有権移転登記をして取引完了となります。
市街化区域内の特例
また、農地が市街化区域内にある場合、市街化区域内の特例として、4条申請(転用のみ)および5条申請(農地転用して売却)については、あらかじめ農業委員会に届出をすれば許可は不要となっています。
なお、3条申請(農地として売却)はこの特例を受けることはできません。
農地売却・転用の申請方法と必要書類
次に農地売買の必要書類や手続きの流れについて確認しましょう。
農地として売却する際の必要書類
まず、農地として売却する場合(3条申請)ですが、おもな必要書類は以下の通りです。
申請先 | 農業委員会(市区町村役場) |
必要書類 | 許可申請書 |
土地登記事項証明書 | |
公図 | |
住宅地図などの案内図 | |
売買契約書の写し | |
営農計画書 | |
その他必要となる書類 |
市区町村によって違いがありますので、事前に各市区町村へ確認してください。
必要書類を揃えて、市区町村役場にある農業委員会へ提出すると、通常およそ1週間から1ヶ月程度で許可が下り許可証が交付されます。
農地を転用して売却する際の必要書類
次に、農地転用して売却する場合(5条申請)ですが、主な必要書類は以下の通りです。
申請先 | 農業委員会(市区町村役場) |
必要書類 | 許可申請書(※届出書) |
土地登記事項証明書※ | |
公図※ | |
位置図 | |
住宅地図などの案内図※ | |
転用計画平面図 | |
売買契約書の写し | |
買主の資金証明書 | |
買主の事業計画概要書 | |
その他必要となる書類※ |
市区町村や転用目的によって違いがありますので、事前に各市区町村へ確認しましょう。不動産業者や行政書士、司法書士に申請手続きを依頼する場合は、各資格者が必要とする書類も用意します。
5条申請に際しては、転用の主体は買主にありますので、売主・買主の双方が申請者となり、申請を行います。
許可の条件は、買主が、さきほどの「一般基準」を満たしていることす。
また、市街化区域内の特例として届出のみの場合は※印の書類のみが必要となり、申請の場合より簡略化されています。詳細は、各市区町村に確認しましょう。
不動産会社の選び方
農地を売却する場合、農地売買取引の経験と実績やノウハウを持っている、農地売買に強い不動産業者に必ず依頼しましょう。
とくに農地転用の場合、複雑な申請手続きや多数の必要書類の用意などがありますので、農地売買の経験が豊富なら安心して任せられます。
また、そういったノウハウを持つ不動産業者は、転用許可のスムーズな取り方を知っており、農地の購入希望者も多くつかんでいるため、農地売却の成功率が高まります。
農地として売却する場合は、農地中間管理機構(農地バンク)の斡旋なども利用しましょう。売却が難しい場合でも、賃貸借に関して相談できます。
農地売却に必要な費用(手数料など)
農地として売却する場合と農地転用して売却する場合とでは、必要な費用(手数料など)が異なります。
農地として売却する際の費用
農地として売却する場合は、個人間売買や農地中間管理機構(農地バンク)の斡旋を利用するケースが多く、必要な手数料は
- 登記費用(登録免許税や司法書士報酬)
- 申請代行費用(申請を行政書士などに依頼した場合のみ)
となります。
農地転用して売却する際の費用
農地転用して売却する場合は、不動産業者へ仲介を依頼して売買することが多いため、
- 仲介手数料
- 登記費用
が発生します。
農地転用による売買では、転用許可後に田や畑などから雑種地や宅地へ地目変更できますので、農地のまま売却するより圧倒的に高い価格で売却できます。
その分、不動産業者への仲介手数料は高くなりますが、売主の手取り額も増えることになります。
また、必要に応じて、
- 土地測量費用
- 分筆費用
- 土地造成費用
などの費用が発生する場合があります。
農地売却にかかる税金
農地売却にかかる税金と特別控除について解説します。
所得税と住民税(短期譲渡と長期譲渡)
農地を売却した場合、一般の土地売却と同じように売却価格からその農地の取得価格、仲介手数料などの諸経費を差し引いて利益が出れば、その利益に対して所得税(+復興税)と住民税が課税されます。
譲渡所得は短期譲渡と長期譲渡に分かれます。
所有期間 | 所得税 | 住民税 |
---|---|---|
短期譲渡所得 (所有期間が5年以下) | 30.63% | 9% |
長期譲渡所得 (所有期間が5年超) | 15.315% | 5% |
農地売却の特別控除
農地を売却した場合の特別控除は、下記の通りです。
一定の条件を満たす場合、一般の土地より控除が受けられます。
農地として売却した場合の特別控除
800万円控除
- 農用地区域内の農地を農用地利用集積計画または農業委員会の斡旋などにより譲渡した場合
- 農用地区域内の農地を農地中間管理機構または農地利用集積円滑化団体に譲渡した場合
1,500万円控除
- 農用地区域内の農地などを農業経営基盤強化促進法の買入協議により農地中間管理機構に譲渡した場合
農地転用して売却した場合の特別控除
5,000万円控除
- 農地が土地収用法などにより買い取られる場合など
農地売買の価格相場
農地売買の価格相場のポイントとしては、このようなものがあります。
- 年々下落傾向にある
- 場所によって価格差が激しい
- できれば転用した方が高値で売れる
それぞれについて、以下に詳しく解説します。
年々下落傾向にある
近年、一部の商業地や住宅地は土地相場の上昇傾向も見られますが、農地の相場は下がり続けているのが現状です。
これは農業従事者の減少から農地の需要が少ないことや、採算性を考えると農地を買うより借りた方が有利であるといったことなどに起因しています。
そのため、なかなか購入希望者が見つからないのが現状です。
下記の表は、一般社団法人全国農業会議所が2018年3月30日に発表した「平成29年田畑売買価格等に関する調査結果(要旨)【PDF】」の一部です。
全国のブロック毎の農地価格と対前年増減率を示しています。
どのブロックも価格が下がり続けていることがわかります。
価格の下落要因としては、農地の買い手の減少や買い控え、米価など農産物価格の低迷、生産意欲の減退、後継者不足などが挙げられ、農業への先行き不安や賃借の増加などに起因しています。
ちなみに、「中田」および「中畑」とは、収量水準や圃場条件が標準的な水田および畑のことをいいます。
場所によって価格差が激しい
同じく、一般社団法人全国農業会議所が発表した「平成29年田畑売買価格等に関する調査結果(都道府県別)【PDF】」も確認しましょう。
都道府県別で確認すると、神奈川県や山梨県など比較的価格の安定しているエリアもあることがわかります。
農地といっても場所や形状、需給バランスなどによって大きく異なるのが土地の相場です。同じ県内であっても、場所によっては価格差が激しく変わる特性を持っています。
その意味で、あなたが売却する農地がどのような価格の評価を受けるかは調査してみないとわかりません。
また、農地転用して売却する場合、農地としての評価は低くても宅地としては高いかもしれませんし、買い手の事業には適した土地かもしれません。
相場は一つの目安として参考にし、あなたの土地の売却価格は個別的要因を含めて、評価する必要があります。
できれば転用した方が高値で売れる
農地転用が許可されれば、その用途はかなり広がります。
そのため、多くの需要を満たすことができるので、買い手を探しやすく価格の上昇につながります。
実際に、農地転用により物流施設、太陽光発電所、病院、コンビニエンスストア、マンションなどができた事例は数多くあります。
需要や事業性が認められれば、土地としての価値は上がり売却価格は高くなりますので、転用の可能性がある場合は転用を前提で売却を検討しましょう。
ただし、所有者が自ら転用する場合、4条申請により許可が下りれば農地転用できますが、転用した場合の目的を達成しなければなりません。
宅地に転用して駐車場経営をする、として申請したなら、その通りに確実に駐車場に転用する必要があります。
この場合、転用した後に買い手が探せないと、宅地にした費用などが無駄になってしまうリスクがあります。
したがって、農地転用を前提で買い手を探す場合は農地のままで探し、買い手が現れたら停止条件付の売買契約を締結し、5条申請をするとよいでしょう。
農地の所有者自らが農地を農地以外のものにする場合は4条申請、農地の所有者以外の者が農地を農地以外のものにする場合は5条申請となります。
規制や手続きの多い農地売却は買い手探しがカギ!
農地には、自由な売買ができないよう規制や制限が設けられています。
そのため、実際のところ、土地取引のプロである不動産業者でさえ、あまり詳しくない業者がいるんです。
農地としては農家や農業生産法人にしか売却できず、農地転用には様々なハードルがあります。
しかし、転用に関しては農業委員会に確認すれば可能性を探れますし、しっかりと事前準備をしたうえで、高い売却価格が見込める転用前提の買い手を探すことが大切です。
農地売買の取引経験が豊富な不動産業者を選んで、農業委員会への申請対応などをスムーズに行い、さまざまな買い手を探すことが農地売却成功への一番の近道です。
以上、農地を売却する方法とは?かかる税金や費用、価格相場、注意点などを徹底解説!…でした。
参考 農地の売却が得意な不動産業者を効率よく探したい…という方は下記記事も参考に。一括査定サイトを利用すると、そのような業者が見つかる可能性も高くなりますよ。