土地、建物の取り扱いをしていると、既存不適格物件や建蔽率や容積率オーバー物件などの違反建築物といわれるものを見かけることがあります。
建物を建築する際には建築基準法などの法令を守って建てなければなりませんが、なぜこのような違反建築物が存在しているのでしょうか?
ここでは、建蔽率や容積率などの用語を説明するとともに、違反建築物の発生原因や、違反建築物を所有することになってしまった場合に、どのように売却したらよいかを解説します。
最後で読めば、違反建築物を保有しても、焦らずに手順を踏んで売却することができます。
違反建築物とは何を指すのか?
現在の日本においては、建物は完成後に建築確認というものを市区町村に申請して、適法に建てられていることが確認されてから購入者に引き渡されますので、最初から違反建築物として建物が建てられることはほとんどありません。
しかし実際には、既存不適格物件とか、建蔽率、容積率オーバー物件とか言われる違反建築物が存在します。
既存不適格物件とは?
既存不適格物件とは、建築した際には適法に建てられていたが、その後の法改正や都市計画の変更などで適格でなくなってしまった建物のことです。
例えば高さ15mの建物を建築した後に都市計画が変更され、10mの高さ制限ができてしまったとします。
建物が老朽化したので、新しい建物を建築しようとしても、現在と同じ15mの建物は建築できず、10メートル以下の高さにしなければならないといった例がこれにあたります。
既存不適格物件の場合、法令等が建物の建築後に変えられたので、現状のままであれば是正を勧告されることなく、住み続けたり、保有し続けたりすることはできます。
しかし建て直しや大規模な改築を行う際には、既存の法令に合わせる必要があるため、同じような建物は建てられません(再建築不可ともいいます)。
- 現状のまま 住み続けたり保有し続けても可
- 建て直しや大規模な改築 同じような建物は再建築不可
建蔽率、容積率オーバー物件とは?
建蔽率、容積率オーバー物件とは、建蔽率や容積率が法令等で指定された率よりも大きくなっている(建蔽率オーバー、容積率オーバーとよぶ)物件です。
例えば住宅を建てたのちに車庫や物置を増築して指定された建蔽率をオーバーしたり、2階を増築して容積率をオーバーしたりすることがあります。
建築確認を取っていれば、建築が認められなかったにもかかわらず、自分で勝手に増改築を行った結果なので、判明した場合には市区町村からは是正(作り直し)を勧告されます。
また是正が勧告されたまま放置して、何らかのトラブルが発生すると責任を問われることになります。
建蔽率と容積率とは、何を指すのか?
建蔽率、容積率オーバー物件で問題とされる建蔽率や容積率とは、いったいどんなものなのでしょうか?
一般的にはなじみのない言葉なので、それぞれ解説していきます。
建蔽率とは
建蔽率とは、その土地のどのくらいまで建物を建てることができるかの割合のことで、
で表されます。
建蔽率は、上の図のように土地を真上から見て、建物が占有する割合を計算します。したがって建築面積を求める場合には、敷地面積×建蔽率で計算します。
建蔽率における建築面積の考え方
例えば100㎡の土地があった時に、建蔽率60%の地域であれば、100m×60%=60㎡まで建物を建てることができます。
建蔽率の場合は、1階部分の面積で計算するので、2階、3階と上に建てられていても、1階より小さければ関係ありません。
また軒やひさし、出窓などは建築面積に含まれます。
建蔽率が設定される理由
建蔽率が設定される理由としては、建物の周りに空間を取ることで日照や風通しを確保することに加えて、万が一の時には、火災による延焼を防ぐ目的があります。
建蔽率は住居系の地域においては低く(30%~60%)、商業系の地域においては高く(60%~80%)なっています。
建蔽率が緩和されるケース
建蔽率は、用途地域ごとに30%から80%の間で定められていますが、加えてその土地の接道状況(道路との接し方)や、建物の構造(耐火建築物)により、建蔽率が緩和(プラス)されます。
例えば、長方形の土地の1つの縦横が道路に接しているいわゆる角地の土地であれば、建蔽率が10%プラスされます。
また都市計画においては用途地域とは別に市街地の中心地などでは防火地域や準防火地域などが決められています。防火地域内で燃えにくい構造を持った耐火建築物を建築する場合には建蔽率が10%プラスされます。
上記の例が角地になっていれば、建蔽率は60%に10%プラスされ、合わせて防火地域の耐火建築物であればさらに10%プラスされ、建蔽率が80%となります。したがってこの土地では80㎡まで建物を建築することができます。
敷地が建蔽率の異なる地域にわたる場合
なお建築物の敷地が建蔽率の異なる地域にわたる場合には、それぞれの地域の建蔽率を加重平均したものになります。
例えば上記例で敷地の5分の2が建蔽率60%、5分の3が建ぺいペイ率80%であったとすると、(60%×40㎡/100㎡)+(80%×60㎡/100㎡)=72%となります。
建蔽率の計算は、自分で行うこともできますが、都市計画図などを調査する必要がありますので、専門家に相談することをお勧めします。
容積率とは
容積率とは、敷地面積に対する延べ床面積の割合のことで、
で表されます。
上の図のように容積率は、3階建てであれば、各階の床面積(赤色部分)の合計と土地面積を比較して算出されます。
したがって延べ床面積を求める場合には、敷地面積×容積率で計算します。例えば100㎡の土地があった時に、容積率が200%であれば、100㎡×200%=延べ床面積が200㎡までの建物を建築することができます。
道路幅員によっては指定容積率より低い値になることも
容積率も地域ごとに指定容積率が定められていますが、接している道路幅(道路幅員)によっては、指定容積率よりもさらに低い値になることがあります。
例えば住居系の用途地域(第一種住居地域など)では、
容積率=道路幅員(m)×4/10
から算出される率となり、指定容積率と比較して、低い方が採用されます。上記の例で考えると、指定容積率が200%、道路幅員が4mとすると、4×4/10=1.6=160%<200%となり、低い方の160%がこの土地の容積率となります。
敷地が容積率の異なる地域にわたる場合
なお建築物の敷地が容積率の異なる地域にわたる場合には、それぞれの地域の容積率を加重平均したものになります。
例えば上記例で敷地の5分の2が容積率100%、5分の3が容積率200%であったとすると、(100%×40㎡/100㎡)+(200%×60㎡/100㎡)=160%となります。
また駐車場や地階など、容積率から除外される部分もあるので、容積率を計算する際には専門家に相談することをお勧めします。
建蔽率、容積率オーバーの物件を売却する際の3つの注意点とは?
建蔽率や容積率がオーバーしている物件でも、売却することが可能です。民法においては契約の自由がありますので、当事者間で同意すれば、違反建築物であっても売却することは可能です。
しかし建蔽率や容積率がオーバーしている物件を売却する場合には、以下の3点に注意が必要です。
- 住宅ローンを組みにくい
- 建て直し、増改築ができない
- 違反があることを説明しなければならない
以下で詳しく説明していきます。
住宅ローンが組めない
住宅を購入する際には住宅ローンを使って、購入することが一般的です。金融機関のローンでは、土地、家屋に抵当権を設定して、もしローンの返済が滞った時などには抵当権を実行し、売却をしてローンの回収を図ります。
しかし建蔽率や容積率がオーバーしていると金融機関は建物に価値が見込めなくなり、担保価値を低く見積もるため、十分なローンが出ないことがあります。
また金融機関によっては違反建築物にはローンを出さないこともあります。
住宅ローンが組めない土地、建物は、普通の土地、建物と比較して、価格を安くしなければならない可能性が大きくなります。
建て直し、増改築ができない
違反建築物を購入すると、その後に建て直しや増改築ができないことがあります。
例えば建物を建てる際には、接道義務というものがあり、都市計画区域、準都市計画区域内であれば、建物の敷地は道路に2m以上接していなければなりません。道路に2m以上接していない土地にある建物は、再建築ができません。
また容積率がオーバーしていれば、改築をする際にも、違反部分を是正しなければ改築することもできません。
違反があることを説明しなければならない
土地、建物の売買の場合には、通常は現況有姿といって、現在の状態で売買することとなっています。
しかし見ただけではわからないけれども、保有者が知っている悪い部分(隠れた瑕疵)については、購入者に対して開示する義務があります。悪い部分とは建物の不具合だけでなく、建蔽率や容積率のオーバーや、自殺があったことなども含まれます。
もし瑕疵があることを隠して売買を行うと、契約不適合責任というものを問われて、契約が取り消しされたり、損害賠償請求を受けたりすることがあります。
建蔽率、容積率オーバーの物件を売却する方法
建蔽率、容積率がオーバーしている物件でも売却はできますが、先に挙げたような不利な点があります。それを踏まえて、建蔽率、容積率オーバーの物件を売却する方法を見ていきましょう。
- 建物を解体する
- 住宅ローンを必要としない人に売る
- 隣地の所有者に売るまたは隣地を買う
1.建物を解体する
一番簡単な方法としては、建物を解体して更地にして売却する方法です。建物がなくなることで建蔽率や容積率に関する問題も解消されます。
また建蔽率、容積率オーバーについての説明も必要でなくなります。ただし建物を撤去する費用がかかるのが難点です。
なお接道義務に違反している土地の場合には、建物を撤去しても再建築ができないので、3にあるような隣地への売却もしくは隣地の購入などを考える必要があります。
2.住宅ローンを必要としない人に売る
中古住宅の場合でも、一般的には住宅ローンを使って購入します。しかし住宅ローンなど必要ないお金持ちであれば、ローンに関係なく購入が可能です。
ただし不動産取引に慣れているお金持ちなら、価格にもシビアなので、かなり価格を低くする必要が出てくるでしょう。
また住宅ローンを使わずに購入できる人を探すのも困難であるといえます。
3.隣地の所有者に売る、または隣地を買う
隣地の人は、自分の土地を広げたいという希望を持つこともあり、建蔽率や容積率がオーバーしていても購入してくれることがあります。
または逆の考え方で、隣地を購入してから売却を行うことも選択肢となります。
隣地と合計して面積を広くすることで、建蔽率や容積率の問題が解消できれば、違反状態でなくなり、住宅ローンも受けやすくなります。そうすれば売却もしやすくなります。
売却方法ごとのメリット・デメリット
違反建築物を売却するには、更地にして売却するのが簡単ですが、費用がかかるのがネックになります。
また現状のままで売却するには違反建築物であることの説明を行わなければならず、住宅ローンが必要でない人など購入者が限られてきます。
もし隣地所有者が知り合いであれば、個人間売買も可能ですが、土地にはさまざまな規制があり、説明が欠けていると後々のトラブルにもなりかねません。
建蔽率、容積率オーバーの物件に対応できる不動産会社に依頼すれば、法律に沿った説明をしてもらえるだけでなく、さまざまなアドバイスを受けることができます。
建蔽率、容積率オーバーの物件に対応できる不動産会社は一括査定サイトで探せますので、一括査定サイトを利用するようにしましょう。
まとめ
一口に違反建築物といっても、建築後に法令等が変更された既存不適格というものと、建設時もしくは建設後に法令等に違反することになった建蔽率、容積率オーバー物件などに分かれています。
いずれにしても再建築する場合には、適格となるように立て直さねばならないため、価格面では安く評価され、住宅ローンも使いにくくなり、購入者が限定されてきます。
また売却時には違反建築物であることの説明をしなければ、契約不適合として契約の取り消しや損害賠償請求をされることもあります。したがって建蔽率や容積率オーバーの物件の売却は、専門家に相談してアドバイスを受けましょう。
一括査定サイトを利用すれば、建蔽率や容積率オーバー物件専門の不動産会社を簡単に見つけることができます。
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